肉体のない民族 (1)

 

《アジアの超大国。そこで束ねられた民族のいくつかが肉体を失った。残った魂と思考のうち、容れ物の必要な魂は、肉体が無くなったあとすぐに消えた》

 

 

 

 

 

「起きてる?」

起きてると言われれば起きてる。だけど君と難しい会話が出来るほど頭は冴えてないから、もしかしたら寝てるかもしれない。

「うわ、めんどくさー・・」

嫌われたらしい。

図書館の閲覧室。本はデジタル化の波に逆らえなかったけど、まだその役目を終えていない。適切に管理された温度と湿度は、僕にとっても心地よかった。静寂に満ちた教養の場は睡眠学習がはかどる。眠らない理由は見当たらない。

ん?豊富な知識をもち、静かに眠る僕はもしかして本と同義なのではないか。そうだ、そうに違いない。だって整然と並び堂々とした様は、まさに僕みたいじゃないか・・。

「頭見てもらったら?」

「人の思考を読まないで」

顔をあげて正面に座るアイを見た。

プログラミングの本を読んでいたらしい。今度の試験も楽々合格するんだろう。努力家の彼女は学年でも上位の成績。見た目はムスッとしてるし男まさりだけど、笑ってるときは最高に可愛い。

それに対して僕はと言いますと。成績は上の下。見た目は、まぁ平均より上?見る人が見れば中の上?だと思いたい。顔面偏差値なんて測れないし、なんとでも言えば良いと思うよ。こんにちは木村拓哉です。

「ねぇユウ、これ読んだ?」

情報学科の学生がよく読む学術誌だった。新刊出てたんだ。木村拓哉の僕は答える。

「まだ読んでないけど」

「特集組まれててさ、国が臨床試験OK出したんだって」

「チョ待てよっ」

「は?」

食糧関連法案  通称フーリーは、ここ数年の世界的な不作を受けて可決された。臨床試験もその一環で、脳みそをデジタルに置き換え、体をヒューマノイドにするというものだ。食料不足の深刻な地域で実施されるらしい。拓哉ネタは古いので封印する。

「アイって西部出身だよね。そっちではやるの?」

「やるみたい。お父さんとお母さんはそこそこ稼げてるからフーリーには参加しないよ。参加してほしくもないけど」

「他の人は参加するの?」

「そんなに多くはないけどね。宗教が特殊だから抵抗は少ないんじゃないかな、うちの家は無宗教みたいなもんだけど」

彼女が生まれ育った西部では、ラマジャンという宗教が根付いている。昔、身分を隠して人間界に住んでいた神様が病で両目を失い、それを嘆いた人間界の親友が片目をあげたそうだ。他者のために身を削ることは美徳とされ、臨床試験への理解は宗教の存在が大きいらしい。

「と言われても、自分の人格をサーバーに保管するのは怖い」

彼女は同意のまなざしを僕に向けて、一呼吸おいて言った。

「家族を養うためとはいえ、西部の人も怖いとは思ってるよ。だけど政府と冷戦状態の地域にわざわざ貴重な食料を送らないよね。たぶん今回の臨床実験も、敵に塩は送らないけど作る方法は教えるってことだと思う」

「なるほど・・」

よく分からなかった。アレかな、食料はやらんけど電脳化して機械いっぱい動かして野菜作って生き延びろってことかな。国外にも言い訳できるし。たぶん。アイちゃんは説明ヘタだから地の文で考え込んじゃったよ~

シュッ

対面からカウンターパンチが飛んできた。

木村拓哉はまたしても思考を読まれた。

 

 

 

 

(つづく?)

小説家になろうにて”ベンザクロック”名義で公開しています

夜中のテンションで書いて提出した工学倫理 (2016.5.2)

 すべての人を幸せに出来る技術は無い。例えば、ひとつの技術が確立され大多数の人々が幸せになったとしても、それ以前の技術で世界を席巻していた人達はその煽りを受け不幸になる。これは直接 金銭に関わる話だが他にも、宗教、国家など様々な切り口がある。しかしそれらは全て俗的で取り止めないことであり、最も根深いのは生命についての問題である。

 分かりやすい議題としてiPS細胞が挙げられる。これは、身体の一部から取った細胞を初期状態に戻して培養し臓器などを造る技術である。一部で宗教問題が取り沙汰されたが、ES細胞では解決出来なかった“命を奪う”という大きな障壁を越える事が出来た。しかし新たに、培養した臓器を入れたヒトは元のヒトと同じなのか、という疑問が生まれた。勿論、iPS細胞は主人の細胞から培養したものであり、身体への順応・心理的ストレスの少なさは現在の臓器移植とは比べ物にならない。そのような表層的問題ではなく、生命とは何なのかという非常に根本的な問題、人間が定義しようとしている生命の境目が以前にもまして不明瞭になるのではないか、という危惧が生まれた。

 現在臓器移植している人、また将来iPS細胞で臓器移植する人も健常者も、等しく一つの生命足りえる。しかし、iPS細胞が99%を占める人は、果たして同じ生命だと言えるだろうか。99.99%ならどうだろう。その境目は誰がどのように決めるべきだろう。

 この禅問答のような生命についての問いこそが、技術者倫理全ての問題につながると考えている。

卵子ダヨ!全員集合! (2016.6.18)

AKB48しかり、アイドルのライブ会場に向かう男性達の列を見てると、会場で待ち受ける卵子に群がる何万もの精子に見えてくる。押さないでくださーい、ゆっくりお進みくださーい

純粋に歌声が好き、という人もいると思う。その人達には申し訳ない。ただ、性格とか外見とかこじはるのおっぱいとかこじはるのお尻が好みという人も多いはず。AKBとの恋愛シミュレーションが出てるくらいだし。

前にショッピングモールで、若い兄ちゃん達のグループに群がって、必死にタオルを振り回す女性陣を見かけた。年齢は兄ちゃん達より上。若い男を食いたがる歳なのか・・とか考えながら 難しい顔して後ろを通り過ぎたけど。

まぁ生物学的に(←高校で履修しただけ)、遺伝子を残す力が強い若者に人気がいくのは必然ですよね。

つまり何が言いたいかと言うと、俺も年下の卵子にダイナミック入店したい。

Do you want to be Meat? あなたは肉になりたい?

「人間はすべての能力を機械に置き換えた後に、何が残るかを見ようとしている 」とは、 ロボット工学者 石黒浩の言葉だ。 車や電話、最近ではパソコンやスマホの普及で、人間に備わる機能はどんどん外部化されている。その先にあるものを、人類は見ようとしているという意味である。

 

この言葉を借りて、考えてみよう。

古代生物から猿、猿から人間になる長い歴史のなかで、私たちの先祖は効率よく生きる方法をずっと探してきた。車やスマホは新しすぎる。弓矢や斧、調理するための道具を挙げるのがいい。

 

それらを作ったことでだんだんと、生きるために必要なモノは体力から知力に変わってきた。

獲物は家畜となり、追いかけ回す必要がなくなった。遠くに出掛けなくとも畑で野菜が採れる。必要なのは、それらを育てみんなに配分する知力だ。

年月を経るごとに、知力は重宝され、体力は軽視されていく。時流に逆らう体力とは肉体労働であり、つねに社会地位の下位にある。  (※スポーツは娯楽)

 

生きるために必要なものが頭に集中し、手や足から機能が失われていく。だんだんと体が表情を無くし平坦になっていく。機械化が進み、知的労働が幅を利かせる社会だ。

 

そしてついに人間はAIを開発しその頭までも外部化しようとしている。

 

「AIが普及しても人間から職は失われない、車や電話が普及したときもそうだったじゃないか」と豪語している人がいたが、バカだ。最後の最後、それは人間の砦なのだ。最大にして最後の発明になるかもしれないAIを、過去の産物と比べることが如何に愚かしいか。

 

結局この体から手も足も、そして頭ももがれる予定の体には何が残るのか。

いまこの文を書く体はいつか、知力のない肉塊となって椅子に沈み込む。